技術コラム
2024.09.16
- 水素還元
水素還元処理とは?水素還元の仕組みについて解説!
目次

水素還元処理とは
水素還元処理とは、水素を使用して酸化された金属酸化物から酸素を取り除く熱処理です。
この処理は、金属の表面を酸素(酸化)を取り除き、金属本来の輝きを取り戻す(光輝焼鈍)ためにも行われますが、それだけでなく、金属粉末のリサイクルを目的としても行われます。金属粉末の処理については下記記事でも詳しく解説しておりますので、是非合わせて確認ください。
>>熱処理サービス「粉末の熱処理(水素還元・水素吸蔵・水素雰囲気)」について詳しくはこちら
このような水素還元は、特に磁気特性を持つような電子部品で重要な役割を果たしています。また、水素を使った還元処理は、従来のガスを使用した方法に比べ、熱処理の際に排出されるのは水だけで二酸化炭素の排出がないことから、環境にも優しい処理方法のため、現在では持続可能な技術として注目されています。


■ 水素還元でできること
さらに水素還元でできることについて、より詳しく解説していきます。
水素還元熱処理の目的は、酸素を除去することです。例えば、溶接の焼けあとや、切断加工での着色を取り除き、金属本来の輝きを取り戻すといったことが可能で、この処理は別名、光輝焼鈍とも呼ばれます。
それ以外にもガラス封着する部品に水素還元熱処理を行うことで気泡が入るのを防いだり、さまざまな成分を分析する装置の部品から他の成分を取り除くことが可能です。水素分子はとても小さく、金属材料の内部まで透過し、還元処理を行うことができます。
純鉄では金属特性を向上させるためには、内部のカーボン量を減らす脱炭素処理が有効です。
水素還元処理の仕組み
水素還元の仕組みについて解説します。水素還元が起こる仕組み、言い換えると水素を活用し酸素を取り除く仕組みなので、化学反応式で考えると理解がしやすいです。
この処理では、水素(H₂)が対象の金属酸化物と反応することで、酸素を取り除くため、今回は酸化鉄を例にご紹介します。酸化鉄(Fe₂O₃)を水素で還元すると、鉄と水蒸気が生成されます。
この反応を実現するためには、熱処理を行う炉をまず水素でいっぱいにしておく必要があります。イメージは下記です。

炉内に水素以外があると、反応が促進されないあるいは意図しない反応が起こる、またはすべてが反応しきらない場合があります。
炉を水素でいっぱいにしたうえで、処理を行うと下図のような化学反応式からも分かるように、酸化鉄の酸素を水素の性質を活用して取り除くことができます。

※画像はイメージです。
水素還元処理に適した材質
水素還元処理に適した材質として代表的なものは、
- 42NI
- コバール
- モリブデン
- 銅
- 純鉄
- ステンレス全般
- モリブデン
- タングステン
などが挙げられます。その他にも金属粉末も処理の対処になります。
希水素雰囲気熱処理・水素還元の処理温度と時間
熱処理による水素還元を行うには、
•水素の純度=ガスの露点
•処理温度と時間
•設備のサイズ
この3つの関係性がとても重要となります。
水素=純水素でなくてはなりません。水素をベースに他のガスを混合させることでも光輝焼鈍を行うことは可能ですが、高精度の水素還元をおこなうには純水素であることが必須です。
露点(ガスに含まれる水分量の単位)はマイナス60℃以下、純度はセブンナイン99.9999%であることが望ましいでしょう。そのときの水分量は対象物が酸化していたとしても0.03%以下です。高純度の水素であることで水素還元が行われます。
肝心の処理時間と温度ですが、単に水素を流し込むだけでは、水素還元は行われません。酸化物を取り除くには、材質に適した温度と保持時間が重要になります。
下記にて純鉄粉末における純水素還元処理の温度と時間を表すチャートグラフを一例としてご紹介させていただきます。
水素還元力は温度が高いほど、全工程時間が長いほどその力を発揮します。ただし、必要以上に温度を上げると変形や溶着恐れがありますのでご相談ください。

露点温度と水分量について

水素雰囲気熱処理・水素還元の設備
■ 連続式コンベア炉
雰囲気炉専門のメーカーに委託し、製作することが重要です。大きく3域に分かれており、加熱準備域、加熱域、冷却域になります。冷却方法は様々ですが、二重管になっている外側に冷却水を流し、水素ガスを冷やすことで冷却するものもあります。
また、出入り口には窒素カーテンで大気の侵入を防ぎ、高純度の雰囲気を形成する炉で水素還元処理を行うことが可能です。
炉内が酸化した場合などは立ち上がりに部品を即投入せず、露点計を使用する方法が有効です。

また、出入り口には窒素カーテンで大気の侵入を防ぎ、高純度の雰囲気を形成する炉で水素還元処理を行うことが可能です。炉内が酸化した場合などは立ち上がりに部品を即投入せず、露点計を使用する方法が有効です。
サーマル化工の連続式コンベア炉では、水素還元力をより高めるために投入有効寸法は縦・横・高さの比率があり、縦に対し横は2倍以上、必要です。炉体の構造は加熱域に対し、準備域は約2倍、冷却域は3~4倍の長さになります。
■ ポット炉
熱処理炉のバッチ式には大きく分けて2種類あります。
熱源と炉体が一体化しているもの:加熱と冷却が同室もしくは複数室になっており、冷却まで一貫して行う炉体になります。
熱源と炉体が分離するもの:加熱炉に専用の耐熱用マッフルを装填して熱処理をおこない、冷却は加熱炉から取り出し自然空冷、もしくは間接水冷をおこないます。この時、耐熱用マッフルは密封型となり、処理完了(常温まで冷却)までマッフル容器内は雰囲気(水素・窒素など)で形成されています。

また、この時のガスは常時フロー(流入、流出を連続して行っている)ので、常に高純度のガスで雰囲気を形成しています。常に新鮮な水素ガスを流し続けることで、その還元力は確かなものとなります。
水素還元力はその材質の処理温度が重要となり、それに対しての保持時間、冷却時間も重要なプロセスとなります。炉体のサイズに上限がありますが、それは水素還元力を確かなものにするためであり、全部で16基にある雰囲気加熱炉は部品のサイズ、さまざまな材質、製品の目的に対して最も適した水素還元熱処理を行うために必要な保有数となります。
水素還元とカーボンニュートラル
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。これは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、植林や森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味します。
地球温暖化は、世界共通の課題であり、その解決に向けて、2015年にパリ協定が採択されました。パリ協定では、世界共通の長期目標として、世界の平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること、そして今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成することなどに合意しました。
この実現に向けて、世界が取組を進めており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げています。日本においても、2020年10月に政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。

水素雰囲気熱処理・水素還元は、他の熱処理と比較しておよそ、二酸化炭素を50%削減可能な熱処理です。
また、水素雰囲気熱処理・水素還元の際に、発生するのはこの二酸化炭素と水のみのため、環境規制物質の排出はゼロのため、非常にクリーンな熱処理になります。
これらの水素熱処理技術が今では、製鉄分野に利用され、「グリーンスチール」として水素還元製鉄法の開発が進んでいます。
熱処理・水素還元技術ナビの水素還元の特徴
最後に熱処理・水素還元技術ナビの水素還元の特徴をご紹介します。
■ 混合ガスではなく純水素による還元処理が可能
純水素による還元処理が可能です。雰囲気熱処理には使用するガスの種類が多く、材質によりガスは異なりますが、その中で鋼材各社が推奨しているのは水素ガスになります。
還元性ガスの熱処理炉で使用されているものの大半は比率を75:25などに分配した混合ガスになりますが、純水素ガスとの違いはその還元力、ガスの露点になります。通常、ステンレスの光輝焼鈍には-40℃以下を求められます。
純度99.9999%以上の水素ガスの露点は-80℃にもなり、その水分量は0.53ppmになります。
■ 微量の酸素も純水素により還元可能
純度99.9999%以上の水素ガスは、分析装置のサンプル採取用、半導体関連の製造装置、基地局用電極など特殊な条件下で必要とされる製品、部品でその還元力を発揮します。また、衝突回避センサーや音響部品、駆動用モーターの 材料にも適しています。
その中でもガラス封着を行うコバールは、ガラスと膨張率が近いため使用されますが、加工途中に酸素が入ってしまうため、そのままでは気泡が出来てしまいます。そのような微量の酸素を取り除くには純水素による還元力の熱処理が必要とされます。
■ 特殊な材質も純水素ガスにより還元
ガスなどのサンプル分析用に使用される純ニッケルは極限まで不純物を除去しなくては測定に影響が生じます。そのような場面に純水素による還元力が高い効果が期待できます。
また食品製造ラインで使用されるセンサーテストには 還元処理後のステンレスを使用します。モリブデンは製造工程での加工硬化と還元が同時に可能な純水素での熱処理が行われます。
また純鉄、パーマロイ、パーメンジュールといった材質も窒化化合物が発生しない純水素による還元処理が推奨されています。
熱処理・水素還元技術ナビの水素還元処理の事例
次に、熱処理・水素還元技術ナビが実際に行った水素還元処理の事例をご紹介いたします。
熱処理事例①:純ニッケルの水素還元処理

純水素ガス99.9999%の雰囲気下で行われる水素還元処理は、水素と酸化物の分子を結びつけることで、金属内外部の微量の不純物までも除去することが可能な熱処理です。
水素還元処理は、精密な分析機器、精密部品の製造工程で主に使用されます。
高温下でかつ長時間の処理を行うことにより不純物の除去を行うことができます。
注意点として、熱処理後の純ニッケル表面は活性化し、溶着が起こる可能性が高いため、・・・
熱処理事例②:コバールの水素還元

こちらは、コバールを水素還元処理した熱処理事例です。
コバールは鉄にニッケルやコバルトを加えた合金で、成分例としてはFe-29Ni-17Co-Si-Mnがあります。
この合金は常温での熱膨張率が低く、硬質ガラスに近いため、ガラス封着やICリードフレームのハーメチックシールなどの電子部品封着端子に利用されます。
このようなコバールですが、電子部品の接着時、ガラス封着の際に、・・・
水素還元処理のことなら、熱処理・水素還元技術ナビにお任せ!
水素還元処理でお困りの際は熱処理・水素還元技術ナビでを運営しておりますサーマル化工株式会社までお気軽にお問い合わせください。
■ 熱処理・水素還元技術ナビの特徴
熱処理・水素還元技術ナビは、難易度の高い精密部品の各種熱処理に対応可能な熱処理のプロフェッショナルです。一般的な焼鈍から、純水素・特殊ガスでの熱処理を、1個から最大100時間の長時間行うことができます。
近年注目されている金属粉末の水素吸蔵によるリサイクル処理についても対応可能です。
■ 研究・開発支援実績が多数
熱処理・水素還元技術ナビを運営しておりますサーマル化工では、研究開発の試験案件を事業の核と考えており、本日に至るまで各業界のメーカー様をはじめとして様々な研究・開発支援を行ってきました。
正確な昇温、安定した保持時間、築炉よる緩やかな降温など試験目的によって、ご希望沿ったヒートパターンのご提案が可能です。
■ お客様からいただくよくある質問
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