技術コラム
2025.08.06
- 水素還元
水素吸蔵合金のリサイクルは水素還元で可能?不純物除去の課題と解決策を解説!
目次
水素吸蔵合金とは?リサイクルが求められる背景
水素吸蔵合金とは、水素と化合して水素化物となる元素を2種類以上組み合わせた合金です。ネオジム、ニッケルなどのレアアース(希土類金属)合金、チタン系合金などが該当します。
また水素吸蔵合金は、温度を利用して、容易に水素を吸蔵し、また水素を放出することができます。 ごく少量の合金でも吸蔵する水素の体積は、希土類金属合金で約15ℓ、チタン系合金になると25ℓにもなります。
これらの金属は、様々な電子機器に活用されているだけでなく、水素吸蔵の性質を利用して、次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素社会の実現に向けて注目されています。特に、水素吸蔵合金は水素自動車や燃料電池、水素エネルギー貯蔵システムなど、多岐にわたる分野での応用が研究されています。
しかし、これらのレアアースは、文字通り地球上に埋蔵量が少なく、産出地域が限られているため、資源の有効活用が喫緊の課題となっています。特に、使用済みの水素吸蔵合金からレアアースを回収し、再利用するリサイクル技術の確立は、資源の安定供給と持続可能な社会の構築に貢献する上で極めて重要です。このリサイクルを効率的かつ安全に行うために、水素吸蔵合金の特性を深く理解し、適切なプロセスを適用することが求められています。


水素吸蔵合金の不純物除去によるリサイクルについて
水素吸蔵合金のリサイクルが困難である主な理由は、その特有の性質と、それに伴う不純物除去の難易度にあります。合金は製造プロセスや使用環境において、空気中の酸素や水分と容易に反応してしまいます。この結果、酸化物が不純物として残存し、再利用される材料の品質を著しく低下させる要因となります。このため、リサイクルのためには混入した不純物や酸化物を取り除く必要がございます。
酸化物、不純物の付着
使用済み合金には、製造過程で混入した不純物や、使用環境下で付着した異物が含まれていることが多く、これらがリサイクル後の材料品質に悪影響を及ぼします。
また、水素吸蔵合金のリサイクルのためには、水素吸蔵合金を一度粉末状にしたうえで、処理をする必要があります、しかし、この粉末化は、表面積を大幅に増加させるため、空気中の酸素や水分と接触する機会が増え、酸化がさらに進行しやすくなります。
特殊な熱処理が必要な理由
これらの不純物や酸化物を効率的に除去するためには、一般的な熱処理だけでは不十分です。特に、レアアースは酸化物との結合力が非常に強く、通常の加熱では分離させることが困難です。また、水素吸蔵合金は特定の条件下で空気中の酸素と反応し、発火・爆発の危険性があるため、安全に処理するためには、雰囲気(ガス組成)や温度、圧力を厳密に管理したうえで、水素還元処理が不可欠となります。そのため、この分野に対応できる専門的な技術と設備を持つ加工業者は極めて限られているのが現状です。
不純物除去を可能にする「水素還元プロセス」の原理
水素吸蔵合金のリサイクルにおける最大の課題である不純物除去を可能にするのが、水素還元技術です。この処理は、水素吸蔵合金の持つ特有の性質を積極的に利用することで、効率的かつ安全に不純物を取り除くことを可能にします。
高純度水素雰囲気下での熱処理
リサイクルプロセスにおける重要な工程は、高純度水素雰囲気下での熱処理です。一般的な熱処理炉では、雰囲気中の酸素や水分を完全に除去することが難しく、これが不純物(酸化物)の再形成や合金の劣化を引き起こす原因となります。高純度水素ガスを用いることで、炉内の露点(水分量)を極めて低いレベル(-76℃)まで管理します。これにより、合金の表面に付着した酸化物を、水素と反応させて水蒸気として除去する還元反応を効率的に進めることができます。この還元反応は、レアアースと強く結合した酸化物に対しても有効であり、リサイクル後の材料品質を大幅に向上させることが可能となります。
【熱処理・水素還元技術ナビ】だからこそ可能な水素還元とは?
水素吸蔵合金のリサイクルにおいて、不純物を効率的に除去し、高品位な材料を再生産するためには、高度な熱処理技術が不可欠です。熱処理・水素還元技術ナビでは、以下の独自の技術を組み合わせることで水素吸蔵合金の水素還元、リサイクルが可能です。
高純度水素ガスを用いた露点管理
水素吸蔵合金の熱処理では、わずかな水分、空気でも酸化の原因となります。当社では、露点(水分量)を-76℃(水分量0.53ppm)まで厳密に管理した高純度水素ガスを使用します。これにより、炉内の酸素や水分を極限まで排除し、酸化物除去能力を最大限に高めるとともに、処理中の再酸化を徹底的に防ぎます。
各レアアースに合わせた最適な温度・圧力・流量制御
レアアース(希土類金属)はそれぞれ異なる特性を持つため、一律の条件での熱処理では求める品質を得ることができません。当社では、ネオジム、チタン、タンタル、ニオブといった各レアアースの性質を熟知しており、最適な温度(200℃~1120℃)、圧力(0.15Mpa~0.20Mpa)、水素流量(10l/m~20l/m)を精密に調整します。これにより、材料の特性を最大限に引き出し、リサイクル効率を向上させます。
精密な炉冷冷却速度コントロール
水素還元において、冷却プロセスも、不純物除去のために極めて重要です。当社では、炉冷冷却速度コントロールを-10℃/h~自然冷却-100℃/hの間で材質に合わせて細かく設定します。これにより、材料内部の水分や不純物をほぼ完全に除去し、再酸化を根本から防止します。
また、ピット型電気炉12基体制により、長時間の精密な熱処理要求にも柔軟に対応することが可能です。
これらの高度な雰囲気制御技術を組み合わせることで、当社は水素吸蔵合金の安全かつ高効率なリサイクルを実現し、お客様のコスト改善に貢献しています。
水素吸蔵合金の水素還元の実績をご紹介!
希土類金属の雰囲気熱処理


こちらは、希土類金属の雰囲気熱処理を行った研究開発事例になります。
雰囲気熱処理を行うことで、貴金属・希土類金属などを還元、粉砕、脆化、脱酸素、不純物除去などを行うことが可能です。
熱処理・水素還元技術ナビの研究開発では、複数の原料を組み合わせているため、その目的や研究により適した雰囲気熱処理でおこないます。
粉末の熱処理


粉末から部品をつくる技術として主なものは、粉末冶金(金型に入れて圧縮成形する技術)焼結(高温加熱することで粒子同士が結合し合金化すること) MIM(MetalInjectionMoldingを略したもので射出成型を意味します)などがあげられます。
粉末冶金技術から3Dプリンタの技術へ繋がり、 粉末の研究開発がより一層、進んでいます。研究開発段階での粉末は複数の原料を組み合わせているため、その目的により複数のガスを用いた雰囲気熱処理でおこないます。
水素吸蔵合金の不純物除去・リサイクルはお任せください。
当社は、レアメタル・希土類金属などの雰囲気熱処理の実績もございます。雰囲気による熱処理は粉末の研究開発、試験に最適な手法で、また、還元性ガスを使った雰囲気の熱処理は金属粉、金属片のリサイクルの実証実験も行います。
長年の経験と実績に基づいた柔軟な対応力で、お客様の多様なニーズにお応えいたします。熱処理・水素・還元技術ナビでは、水素吸蔵合金のリサイクルを行う研究開発に取り組んでおります。