技術コラム
2026.01.07
雰囲気熱処理の鍵を握る「ガスの種類」と使い分け:水素・窒素・アルゴンの特性を徹底解説
目次
雰囲気熱処理において、炉内を満たす「ガス」の選択は、製品の仕上がりを左右する最重要工程の一つです。素材の特性や処理目的に合わせ、主に水素・窒素・アルゴンの3種類が現場で使い分けられています。本記事では、各ガスの特性と雰囲気熱処理での特徴を解説いたします。
雰囲気熱処理とは?
雰囲気熱処理とは、炉内に特定のガスを満たし、金属表面の酸化を防いだり、特定の化学反応を促進させたりする熱処理方法です。熱処理における「雰囲気」とは、炉内を満たしている「ガス」のことを指します。ガスには「加熱すると膨張し、冷えると収縮する」という性質があります。
この性質を利用し、熱とガスを組み合わせて炉内から空気(酸素)を追い出した状態を作ります。酸素がない状態でワーク(加工物)を加熱することで、「酸化させずに熱処理を行う」ことが可能になります。
雰囲気熱処理は、水素をはじめとして、窒素ガス、アルゴンガスなどのガスを用いる処理など処理を行う素材と目的合わせて様々な手法があります。
雰囲気熱処理の用いられるガスの主な種類
水素 :酸化物を除去し輝きを取り戻す「還元の主役」
水素は強力な「還元性」を持ち、金属表面の酸素を奪い取る性質があります。
主な役割: 酸化(サビ)した金属の光沢を取り戻す「光輝焼鈍」や、溶接後の焼け跡除去に不可欠です。
粉末への高い適性: 水素は分子量が非常に小さく、浸透性に優れています。そのため、固形物だけでなく粉末状材料の細かな隙間まで入り込み、深部の酸化物を効率よく還元します。
信頼性を支えるガス純度: 現場では、一般的な「グレード4」から、純度99.99999%以上を誇る「グレード1(7N)」までが使い分けられます。
グレード1は高価ですが、微量成分まで厳格に分析・証明されているため、極めて高い信頼性が求められる研究開発や、特殊な処理で劇的な効果を発揮します。
窒素 :安価で安全な「不活性ガスの代表格」
空気の約78%を占める窒素は、燃焼の危険がない安全な「不活性ガス」として、熱処理現場で最も広く利用されています。
主な役割: 非鉄金属の低温焼鈍や焼き戻しなど、酸化を防ぎたい場合の「保護雰囲気」に最適です。熱処理後の冷却用ガスとしても重宝されます。
注意点: 水素とは異なり、すでに激しく変色してしまった表面を完全に元の光沢へ戻す(還元する)力はありません。
アルゴン:他の物質と反応しにくい、極めて安定した性質
「なまけもの」を語源に持つアルゴンは、窒素以上に他の物質と反応しにくい、極めて安定した性質を持っています。
主な役割: チタンなどの「水素を吸蔵(吸収)しやすい金属」や、アモルファス合金、ナノ結晶磁性材といった、極めてデリケートな材料の熱処理に使用されます。
最先端分野での活用: 変化を嫌う特性を活かし、次世代リチウムイオン電池の再生化研究など、高度な技術開発の場でもアルゴン雰囲気の採用が模索されています。
応用編:高度な雰囲気を制御する「混合ガス」と「バブリング」
単一ガスだけでなく、目的に応じて条件をカスタマイズする手法も存在します。
混合ガス(RX/AXガスなど)
水素と窒素を特定の比率(例:75%:25%)で混合し、コストと性能のバランスを最適化します。
バブリング(ウエット処理)
ガスを水にくぐらせ、あえて水分(プラスの露点)を含ませる技術です。
- 目的: 「脱炭処理」を行ったり、酸化被膜を付加したりするために用いられます。
- 用途: ろう付け用のジグ製作や、水素エンジン関連部品の特殊な評価試験など、非常に高度な専門領域で応用されています。
品質を左右する「露点(ろてん)」の管理
ガスの種類と同じく重要なのが、ガスの乾燥度を示す「露点(水分量)」の管理です。炉の「出口」で露点を測定することで、処理の完了を見極める重要な指標となります。
| 露点温度 | 処理の目安・期待される効果 |
| 0°C 以上 | 酸化皮膜処理(あえて酸化させる処理)などに使用。 |
| -20°C | 鉄が酸化しなくなる基準。 |
| -40°C | SUS430など |
| -60°C | SUS304、クロム合金など |
| -80°C | PPM単位の酸化物除去 |
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