技術コラム
2025.11.05
酸化被膜をつけるウェット水素処理とは?
目次



熱処理には、金属の酸化を取り除き、輝きを取り戻す「水素還元(光輝焼鈍)」という技術があります。しかし、特定の目的においては、あえて金属の表面に「酸化被膜」を形成させる処理が求められます。
その代表的な方法が「ウェット水素処理」です。
この記事では、通常の水素還元とは逆の目的で行われるウェット水素処理(酸化皮膜処理)について、そのメカニズムやメリット、具体的な用途を解説します。
ウェット水素処理とは?
ウェット水素処理(ウエット水素処理)とは、意図的に水分量を多くした(露点の高い)水素ガスの雰囲気中で行う熱処理のことです。
通常の「水素還元」や「光輝焼鈍」では、金属の酸化を防ぐため、徹底的に水分を除去した乾燥水素(ドライ水素)を使用します。例えば、高精度な還元処理では露点(ガスが結露する温度=水分量)を-60℃以下、時には-80℃といった極低温で管理します。
それとは正反対に、ウェット水素処理では水分を多く含む水素(プラス露点の水素)を使用します。この雰囲気中で熱処理を行うと、金属(特にステンレスやインコネルなど)の表面に含まれるクロム(Cr)層と酸素(O)が意図的に反応し、安定した酸化被膜が形成されます。
酸化被膜とは? そのメリットとは?
酸化被膜とは、ウェット水素処理によって金属表面に意図的に形成される、薄く安定した保護膜のことです。
この処理を施すことで、母材となる金属に以下のような大きなメリット(付加価値)が生まれます。
メリット1:耐酸性の向上
最大のメリットは「耐酸性」が格段に向上することです。
例えば、半導体部品の製造工程では、部品を強力な酸で洗浄するプロセスが不可欠です。このとき、洗浄槽や部品を固定する治具が金属製のままだと、酸によってすぐに腐食し、寿命が短くなってしまいます。
そこで、あらかじめウェット水素処理で表面に強固な酸化皮膜を作っておくことで、金属が酸に直接触れるのを防ぎ、治具や設備の腐食を防止します。
メリット2:ロウ材(はんだ)の接合防止
金属部品同士を接合する「ロウ付け」の際、部品を固定する治具にも酸化皮膜処理が役立ちます。
もし治具が未処理の金属(特にSUS304など)の場合、溶けたロウ材(はんだ)が部品だけでなく治具にも流れ込み、くっついてしまう(接合してしまう)不良が発生します。
治具の表面に酸化皮膜を形成しておけば、余分なロウ材が治具に付着するのを防ぎ、歩留まりの向上や作業効率化に貢献します。
メリット3:膨張係数の調整(ガラスとの接合)
電球や医療機器、センサー類などでは、金属部品とガラスを接合する場合があります。
このとき、金属とガラスの熱膨張係数(温度によってどれだけ膨張・収縮するか)が大きく異なると、加熱・冷却時にガラスが割れてしまいます。
コバールのような特定の金属材料に酸化皮膜処理を施すことで、金属とガラスの膨張係数を近づけ、接合部の信頼性を高めることができます。
当社のウェット水素処理技術
私たちサーマル化工(熱処理・水素還元技術ナビ)は、高純度水素(純度99.9999%、露点-76℃)を用いた精密な「水素還元処理」を得意としていますが、その知見を活かし、逆の特性である「ウェット水素処理(酸化皮膜処理)」にも対応しています。
ウェット水素処理で重要なポイントは使用する水の種類と量になります。
処理材料の種類と量に合わせて最適な水の種類(純水、イオン交換水など)、水の量で処理を行う必要があります。この水の種類と量のバランスについてはノウハウがなければ実施できず、狙った酸化被膜をつけることができません。
当社では、ウェット水素処理の豊富な実績とノウハウがございます。インコネル、ステンレス(SUS)、ハステロイといった材質はもちろん、お客様の部品形状やニーズに合わせた最適な熱処理条件(温度、時間、露点管理)をご提案可能です。
酸化被膜をつける処理を行った事例をご紹介!
酸化皮膜処理(大気処理)



こちらは酸化皮膜処理(大気処理)を行った熱処理事例です。
大気焼鈍で金属特性を高められる合金は、高い耐酸化性をもっているおり、酸化物のスケール等によるコンタミや構造物のCr成分と処理物の反応がない合金、 塩化第二鉄や塩化第二銅のような強酸化剤、有機物や無機物の混じった高温の媒体、塩素、酢酸および海水や塩水にも長時間耐えられる金属特性を持ったものなどがあります。
耐酸化性に特化した合金は、酸化雰囲気で使用される各種容器、トレーやメッシュベルト、加熱炉や熱処理炉の部材にも使用されています。
ウエット水素処理(酸化皮膜処理)


こちらは、ウエット水素処理(酸化皮膜処理)を行った熱処理事例です。
通常、光輝焼鈍で使用される水素の露点(水素が結露する温度、ガスの水分量)はマイナス40℃以下が推奨されており、部品の不純物を除去可能な露点はマイナス60℃以下が望ましくなります。
これとは逆に水分量の多い水素(露点の高い水素)で熱処理すると表面のクロム層と酸素が反応して、酸化被膜を覆うことになります。大気焼鈍と異なるのは、比較的一定の酸化被膜処理が可能な点です。
酸化皮膜をつける熱処理は当社にお任せください
サーマル化工株式会社では、酸化被膜を除去する「水素還元」から、あえて酸化被膜をつける「ウェット水素処理」まで、お客様の目的に合わせた特殊な熱処理に幅広く対応いたします。
- 確かな技術力:難易度の高い精密部品や特殊材質(インコネル、ハステロイ等)の処理実績が豊富です。
- 24時間特急対応:「今すぐ処理してほしい」という短納期のご要望にも柔軟に対応します。
- 徹底した品質管理:マイクロビッカース等による検査で、目的の品質を保証します。
「この治具、酸で腐食して困っている」
「ロウ付けがうまくいかない」
といったお悩みがあれば、ぜひ一度当社にご相談ください。最適なウエット水素処理をご提案・ご提供いたします。