技術コラム
2024.08.05
- 熱処理の基礎
析出硬化(時効硬化)処理とは?焼き入れ、焼き戻しとの違いも合わせて解説!
目次
析出硬化(時効硬化)処理とは
析出硬化処理は、時効硬化処理とも呼ばれ、金属表面の強度や硬度を向上させるための熱処理方法の一つです。
この処理は、金属内部に微細な析出物を形成することで、金属全体の強度を高めることを目的としています。主にC1720(ベリリウム銅)、SUS630~632(析出硬化系ステンレス)、インコネル718・750X(耐熱鋼ステンレス)などに適用されることが多く、航空機や自動車の部品、エレクトロニクス分野などで使用されます。
析出硬化処理は、材料の長寿命化や性能向上に大きく寄与する熱処理方法の一つです。
析出硬化(時効硬化)処理と焼き入れ、焼き戻しの違い
析出硬化処理、焼き入れ、焼き戻しはいずれも熱処理方法で、金属を硬化させるという意味では似ていますが、正しくは異なる熱処理です。
焼き入れは、金属を高温に加熱し急冷することで硬度を高める処理です。また、焼き戻しは、焼き入れ後に適切な温度で再加熱し、靭性を向上させるための処理です。
これに対して、析出硬化処理は材料内部に微細な析出物を形成することで強度を向上させる、つまりはそのために一定の温度で時間をかけて熱処理を行うという点が大きく異なります。
具体的なイメージを熱処理温度を縦軸、時間を横軸にしたグラフで表現しましたので、下記を確認ください。
※画像はイメージです。
析出硬化(時効硬化)処理に適した材質
析出硬化処理に適した材質として代表的なものは、
- C1720(ベリリウム銅)
- SUS630~632(析出硬化系ステンレス)
- インコネル718
- 750X(耐熱鋼ステンレス)
などが挙げられます。その他にもアルミ系も析出硬化の対処になります。
析出硬化(時効硬化)処理の注意点
析出硬化処理を行う際には、いくつかの注意点があります。
■ C1720(ベリリウム銅)の注意点
C1720(ベリリウム銅)に関しては熱処理温度によっては変形してしまいます。熱処理を行う前に温度(昇温、保温、冷却すべての温度)と時間を事前に確認し、適切に温度管理を実施する必要があります。
■ SUS630~632(析出硬化系ステンレス)の注意点
析出硬化系ステンレスに対しては、変色と酸化に注意する必要があります。特に表面は変色しやすく、酸化も進みやすくなります。
熱処理後はすぐに防錆処理を行い、次工程に表面処理がある場合も多いため、いかに加工時間を短縮するかが重要です。
販売されている材料には溶体化熱処理されているものがありますので、購入先に確認することで、熱処理の工程が少なくなくすることができます。
※溶体化処理=合金を均一固溶体の範囲の温度まで加熱、そして十分な時間保持し、急冷して固溶体の状態を常温までもってくる処理。ステンレスの金属特性を上げる熱処理。
このような様々工夫を行うことで、変色や酸化が発生しないよう次工程に素早く移行させることが重要です。
■ インコネル718の注意点
インコネルの析出硬化(時効硬化)は硬化の最大値が正確に定まっており、熱処理後も酸化することがほぼないことが特徴として挙げられます。表面色が変化する場合もありますが、その後、酸化が進むことはほぼありません。
高温大気中でもスケール(すすなど)が発生することも少なく、大変厳しい条件下で部品として使用される材質になります。
しかしその一方で、加工は難しく難加工材に分類され、材料自体も非常に高価になります。熱処理条件も特殊かつ長時間処理となり、熱処理の保持時間だけでも20時間以上、昇温、降温、冷却までを含むと30時間近くかかります。
それに伴い熱処理費用も他の析出硬化系に比べて高額となってしまいます。
そんなインコネルですが、最大の注意ポイントは「詰め込みすぎると変形する」という点です。
析出硬化を時効硬化とも言う位の長時間処理です。詰め込み過ぎると捻れたり、その形のまま硬化してしまいます。コストを抑えようと一度に大量の熱処理を行おうとすると、全て寸法から外れる可能性も十分に考えられます。
高価なだけに慎重に行うことが重要ですし、注意が必要です。
熱処理・水素還元技術ナビの析出硬化(時効硬化)処理の事例
次に、熱処理・水素還元技術ナビが実際に行った析出硬化処理の事例をご紹介いたします。
熱処理事例①:ベリリウム銅の析出硬化処理
析出硬化、あるいは時効硬化とも呼ばれる熱処理は、固溶化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、時効硬化によって第2相を微細分散析出させて硬化します。
材質によって成分組成が異なるため熱処理条件は異なります。ベリリウム銅は接点、ばね、防爆用シールドなどとして幅広く使用されていますがその金属特性は析出(時効)硬化によって最大まで向上させることができます。
析出硬化系ステンレス630 631も同様に比較的低温で・・・
熱処理事例②:インコネルの時効硬化処理(析出硬化)
析出硬化、あるいは時効硬化とも呼ばれる熱処理は、固溶化熱処理で過飽和に固溶した析出硬化元素を、時効硬化によって第2相を微細分散析出させて硬化する熱処理です。
材質によって成分組成が異なるため熱処理条件は異なり、比較的低温でかつ短い時間で可能な材質もありますが、特殊な条件下で使用されるインコネルの時効硬化処理は、750Xの場合、704℃で20時間保持と長時間にわたる熱処理が必要です。
熱処理 水素還元技術ナビでは・・・
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